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渋谷の父 ハリー田西の連載小説


「渋谷の父 占い事件簿 不死鳥伝説殺人事件」

〜悲しい結末(1)〜

川崎市高津区の府中街道沿いの一角に、広さ3ヘクタールほどの雑木林が広がっている。
 この雑木林の持ち主である原太朗という老人は、毎朝、柴犬のシローを連れて、自分の土地を散歩するのを日課にしていた。
ただ、その格好はちょっと変わっていた。長靴を履き、手には杖の代わりにスコップが握られていたからだ。
彼はなぜこんな格好をしているのだろう?実は、彼の雑木林は、通称"猫の森"と呼ばれる野良猫の天国になっていた。
飼い猫がいらなくなった人間にとって、街道沿いのこの雑木林は格好の姥捨て山であり、わざわざ車で捨てに来る人間が後を絶たなかった。
また、捨てられた猫同士がつがって繁殖することもあり、それがこの森に住む猫をさらに増やしていた。
しかし、野良猫の寿命は、決して長くはない。もともと病気を持っている場合もあるし、厳しい自然環境にさらされる中で、病気になってしまう者も少なくなかったからだ。
原老人も、野良猫たちが自分の林の中で普通に暮らしている分には鷹揚に構えていたが、野良猫がしょっちゅう死んで、その死骸が転がっているのには、いささか閉口した。
「これじゃあ、猫の森どころか、猫の墓場じゃねぇか」
それで、毎日、敷地内を散歩しながら、野良猫の死骸を見つけては、それを埋葬していたのだ。
この日も、シローと一緒に散歩していると、明らかに、人の手で掘り返され、新たにこんもりと盛られた土の跡をシローが突然掘り始めたのだ。
老人は、誰かがこの雑木林に入り込み、犬か猫の死骸を埋めたか、ゴミでも埋めたのだろうと思った。
「これ、シロー、やめろ。そりゃ誰かが埋めたんだろうから・・・」
 老人はそう言って、シローを制したが、その時、比較的浅い土の一部から、人間の衣服のようなものが顔をのぞかせた。
 それで老人は持っていたスコップで、そうっと土を掘り起こしてみた。
 すると、そこから小さな人間の死体が出てきた。
 そして、その傍らには、さらに小さな犬の死体が寄り添うように埋められてあった。
 川崎市の山林から男の子の死体が発見された!それは、もしかすると、誘拐された森山敬一郎の息子・海人かもしれない────。
 神奈川県警からの知らせを受け、村田警部は、部下をつれて現場に急行した。
 現場保存のためのロープが張られた現場で調べにあたっていた登戸署の杉田刑事は、
「鑑識の話では、死因は食べ物をノドに詰まらせた窒息死らしいです」  と、言った。
「窒息死?」
「絞殺ではなくて?」
「ええ、絞殺された形跡はありません。また、衣服にはかなり吐しゃした痕があります」
 と、続けた。
 そこへ、森山敬一郎と沙希が悲痛な顔をして駆けつけて来た。
 死体をひと目見た瞬間、沙希は、「海人ーっ!」と叫んで、死体にすがって、
泣き崩れた。
 こうして死体は誘拐された森山海人と確認された。海人は、やはり死亡していたのだ。
 遺体は、そのまま聖マリアンナ医科大学病院に運ばれ、医学解剖された。
 詳しい解剖の結果、海人は、誘拐されたショックと恐怖、極度の緊張から持病のゼンソクを起こしたらしい。
 そして、その苦しさと寂しさから監禁場所で泣いていたと思われる。やがて、発作を起こし、その際、食べ物がノドに詰まり、窒息死したということがわかった。
 現場には、男物の靴跡が二種類残されていた。一つは26.5cm、そしてもう一方は28cmのスニーカーのものだという。
 スニーカーを履いているということと足のサイズからから考えると、犯人はフットワークが軽い若めの男性二人組ではないかと推定された。



目 次
プロローグ
二人の占い師(1)
二人の占い師(2)
二人の占い師(3)
第一の的中(1)
第一の的中(2)
第一の的中(3)
第一の的中(4)
第二の的中(1)
第二の的中(2)
第二の的中(3)
第二の的中(4)
第二の的中(5)
第二の的中(6)
相次ぐ失踪(1)
相次ぐ失踪(2)
相次ぐ失踪(3)
相次ぐ失踪(4)
悲しい結末(1)
悲しい結末(2)
悲しい結末(3)
悲しい結末(4)
悲しい結末(5)
悲しい結末(6)
悲しい結末(7)
悲しい結末(8)
悲しい結末(9)
解けない謎(1)
解けない謎(2)

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は一部許可を受けたもの以外すべて架空のものです。