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渋谷の父 ハリー田西の連載小説


「渋谷の父 占い事件簿 不死鳥伝説殺人事件」

〜第二の的中(1)〜

 森山敬一郎は大変に子ぼんのうである。
 元アイドル歌手の妻・沙希との間に出来た三歳になる一粒種の海人を溺愛していた。
 森山も元は同じアイドル歌手としてデビューし、アイドルとして董が立つに従い、徐々に役者へとシフトした。
かつて独身の頃は、若さにまかせて多くの女性歌手やタレントと浮名を流したプレイボーイだったが、三十三歳の時にバラドルとして人気を集めていた坂本沙希との結婚。そして、海人が誕生してからは、往年のプレイボーイぶりもすっかり影をひそめ、マイホームパパの顔を見せるようになった。
 それに伴って、最近はホームドラマでの人の好い夫役がついたり、バラエティー番組のコメンテーターとして出演したりと活躍の場を広げていた。
 そんな変身のキッカケを作ってくれたともいえる愛息のことだけに、『岡倉天外SP』で子供に災いがふりかかるという闇亡殺が出ていると指摘された森山は、番組収録後も心配でならなかった。
 六月五日日曜日。先日収録した番組が放送される日である。
その日、Vシネマの仕事で横浜方面へロケに出かけることになっていた森山は、朝から嫌な予感がしていたのか、妻が用意した朝食をとりながら、
「沙希、いいか、くれぐれも気をつけろよ」
 と、くどいほど注意した。
「気をつけろ、気をつけろって、大丈夫よ。心配性ねぇ。海人とは四六時中一緒にいるんだから」
「わかってるよ。でも、それでも海人から目を放すな」
 その言葉を聞いて、沙希は苦笑しながら、
「あなたはちょっと岡倉天外の占いに毒されすぎよ」
 と返した。
「いや、僕だって前だったらあんな占いは信じないし、信じたくないよ。でも、MASAKIのこともあるからな。用心するにこしたことはないんだ」
「何言ってるのよ。私は、あなたと違って、いつもあの番組を見ているけど、全部が全部占いが当たってるわけではないのよ。たまたま当たったことだけを強調して取り上げるの。演出サイドの手よ。でも、視聴者はそれですっかり全部が当たっているような錯覚を受けてしまうのよ。あなたもギョーカイの人間なんだから、そのくらいわかるでしょう?」
「わかるさ。でも、それはそれとして、万が一ということもあるんだ」
「もうホントに大げさなんだから・・・。だったらあんな番組に出なきゃよかったのよ」
「仕方がないだろう。事務所が入れた仕事なんだから・・・」
「嫌なら断ればよかったじゃない。あなたはもう役者として十分一本でやっていけるんだから・・・」
「わかってるよ。それよりとにかく海人は僕らの大事な宝物なんだ。しかも、あの子は生まれてすぐにメレナにかかかるわ、今も疲れるとゼンソクが出るわで、身体も丈夫なほうじゃない。心配するのはあたりまえだろう?」
「でも、だからといって、このまま心配ばかりしていたら、すごい過保護な子になっちゃう気がするの。それでなくても、甘えん坊なんだもの。私は、心を鬼にして、もう少し強い子に育てなくちゃと思っているわ」
「まぁなにはさておき、まず交通事故とかに気をつけてくれ。車はあぶないからね」
「はいはい、わかりました。それよりあなたのほうこそ気をつけてね。あんまり海人のことばっかり考えていると、仕事にだって身が入らないし、運転とかだってあぶないわ」
「ああ、気をつけるよ。じゃあ、行ってくる」
 森山は、気もそぞろに返事をすると、立ち上がった。



目 次
プロローグ
二人の占い師(1)
二人の占い師(2)
二人の占い師(3)
第一の的中(1)
第一の的中(2)
第一の的中(3)
第一の的中(4)
第二の的中(1)
第二の的中(2)
第二の的中(3)
第二の的中(4)
第二の的中(5)
第二の的中(6)
相次ぐ失踪(1)
相次ぐ失踪(2)
相次ぐ失踪(3)
相次ぐ失踪(4)
悲しい結末(1)
悲しい結末(2)
悲しい結末(3)
悲しい結末(4)
悲しい結末(5)
悲しい結末(6)
悲しい結末(7)
悲しい結末(8)
悲しい結末(9)
解けない謎(1)
解けない謎(2)

※この物語はフィクションであり、登場する団体・人物などの名称は一部許可を受けたもの以外すべて架空のものです。